整形外科疾患の治療には、専門的な知識や経験、高度な医療機器が必要となります。




担当:川合 智行

横浜市内動物病院に勤務しながら東京医科歯科大学にて人工靭帯の研究にて博士号取得(学術博士)。 その後、上田と共に横浜山手犬猫医療センターを開院。整形外科、軟部外科、内視鏡外科を担当。常に最新の手術方法の習得を心懸ける。




特に骨折や脱臼、靭帯断裂、神経麻痺などの整形外科疾患に対しては、迅速な対応が望まれます。当院では特殊な技術が必要な整形外科疾患にも対応できるように設備を整え、飼い主様のご期待に応えられるように最善を尽くしてまいります。


当院で対応可能な整形外科手術



  • 骨折

    橈尺骨骨折、脛骨骨折、大腿骨骨折、骨盤骨折、上腕骨骨折、顎骨骨折、中足骨骨折、中手骨骨折、指骨骨折、尾骨骨折

  • 脱臼

    膝蓋骨脱臼、股関節脱臼、手根関節脱臼、肩関節脱臼、肘関節脱臼

  • 関節疾患

    前十字靭帯断裂、レッグペルテス(大腿骨頭壊死症)、股関節形成不全

  • 神経疾患

    椎間板ヘルニア、椎体骨折



整形外科・神経外科手術経験1000症例以上





骨折治療


骨折とは骨の外傷のことで、外からの力により骨の連絡が一部または全部絶たれている状態をいいます。犬の骨折は、多くの場合 1 歳以下の四肢での発症で、抱っこや高いところからの落下事故等によって引き起こされます。特に骨が細い犬種である、トイプードル、チワワなどの犬種は注意が必要です。交通事故や落下事故では、骨折のみならず内臓や頭部にも損傷を受けていることがあり、その場合、損傷を受けている部位によって様々な症状が起こります。


動物の骨折治療は罹患部位や原因、動物の性格等により整復方法が異なります。

どの方法で治療を行わなければいけないということはなく、術者の経験と知識、飼い主様のご要望により治療方法が決定されます。手術方法は髄内ピン、プレート固定や創外固定法などがあり、これらの方法を単独もしくは組み合わせて治療を行います。



  • プレート固定法
  • 創外固定法
  • ピンニング法



プレート固定法


プレート固定法は初期強度が高く、手術後に安静が必要な動物の骨折治療に最適です。
当院では通常のステンレスプレートの他に、ロッキングコンプレッションプレート(LCP)を使用しております。しかしプレートにより骨が脆弱化し、抜去せざるを得ない場合もあり、その際は再骨折のリスクが伴います。そこで当院では、プレート抜去が不要なチタンプレートも状況に応じて使用してます。



  1. ① ステンレスプレート

    骨に沿った形状にベンディングすることで様々な部位に使用できます。
    プレベンディングプレート(予め曲がっているプレート)を用いることもあります。




    ミニチュアダックス骨盤骨折




  2. ②ロッキングコンプレッションプレート

    LCP – Locking Compression Plateは、プレートにスクリューを ロッキングさせて固定する新しいコンセプトのトータルプレート& スクリューシステムです。
    LCPはロッキングスクリューとプレートの角度安定性 によって骨折部を固定するため、プレートを骨に 圧迫する必要がありません。 LCPは骨癒合に重要な骨膜の血流を温存することが可能です。







    ロッキングコンプレッションプレート使用例



    シュナウザー大腿骨骨折



    フレンチブル脛骨骨折



    ミニチュアダックス大腿骨遠位骨折





    MATRIX MANDIBLE Plating System使用例


    ミニチュアダックス両側下顎骨骨折癒合不全




  3. ③チタンプレート

    生体材料と接触性骨形成するチタンは、骨とプレートが生体内において安定的な状態を保つ生体親和性に優れた金属です。ステンレスと比較してチタンはヤング率/104GPa(剛性)が低いので、骨に荷重が加わりやすく、生体親和性に優れた金属であるため、基本的にはプレートを抜去する必要がなく、抜去することで起こり得る再骨折のリスクがありません。



    MATRIX MANDIBLE Plating System使用例



    トイプードル橈尺骨癒合不全



    トイプードル橈尺骨癒合不全(遠位粉砕骨折)







創外固定法


開放骨折や感染を伴う骨折、骨折部位が関節に近くプレートが挿入できない場合等に用います。



シベリアンハスキー脛骨開放骨折



日本猫足根関節脱臼






創外固定法


超小型犬や小型犬は僅かな外力により橈尺骨が骨折してしまうことがあります。
橈骨遠位骨端部は血行が少なく、末梢ほど付属筋腱、靭帯による力学的負荷が繰返し作用します。従って橈骨遠位の固定法は骨折治癒を阻害する多様のストレスを確実に制御できる固定方法が望まれます。適切な固定方法が施されなければ骨片の転位による骨癒合不全となるケースが少なくありません。


犬種別発生率(n=100)体重
1.トイ・プードル32%2.5kg未満58%
2.イタリアン・グレーハウンド27%2.5-5kg32%
3.ポメラニアン13%5kg以上10%
4.チワワ12%年齢
5.パピヨン9%成長期(成長節あり)44%
6.ヨークシャーテリア4%成犬(成長節なし)56%
7.ミックス(プードル様)3%



動きが激しい割に骨質の華奢な犬種に多い
原因は落下や飛び降りによるものが圧倒的に多い(約90%)


  • 小型犬の橈尺骨の直径は他種と比較して細く、軟部組織による支持も少ない。


Toy poodle


Domestic Cat


Bull dog






成長期の橈尺骨骨折


  • 成長期の橈尺骨骨折 44症例
  • 骨折線が橈骨全長の1/3より近位・・・37症例(84.1%)
  • つまり橈骨近位から指端までの全長の1/2以上で骨折してることが多い(横骨折~斜骨折)
  • 遠位骨片の尺骨がまだ太い






成犬の橈尺骨骨折


  • 成犬の橈尺骨骨折 56症例
  • 骨折線が橈骨全長の1/3より遠位・・・49症例(87.5%)
  • つまり橈骨近位から指端までの全長の1/2以下で骨折してることが多い(斜骨折)
  • 骨折部位の尺骨が極端に細い











ピンニングとキャスティングによる骨折整復


利点

切開創が小さくてすむ
短時間で整復固定が容易に行える
遠位骨端に近い骨折には有効な手段


欠点

髄内ピンだけでは確実な固定が得られないことがある
キャスティングを併用する必要がある


超小型犬や成長期で骨が柔らかいためプレート固定が困難な症例に適応








最小侵襲整形外科手術による橈尺骨骨折整復


経皮アプローチによる手術が可能


正確で迅速な手術
麻酔時間の短縮(手術時間、約5~10分)
組織侵襲の最小化



早期の機能回復・良好な治療効果








ストレートプレートによる骨折整復


利点

強固な固定が持続するため,術後早期に患肢への荷重が可能となる



欠点

髄内ピンと比較し切開創が大きく必要骨折に適合するプレートやスクリューが入手できないことがある







膝蓋骨脱臼とは


膝蓋骨(膝にあるお皿のような骨)が正常な位置から内側、外側または内外両側に外れてしまう状態をいいます。小型犬では、膝蓋骨の内側への脱臼(内方脱臼)が多くみられます。




膝蓋骨脱臼は幾つもの要因が合わさって発症しますが、先天的に脱臼している場合や、成長とともに徐々に膝関節周囲の形態に異常が出ることで脱臼する場合、さらに後天的に外傷や骨に関連する栄養障害などがある場合など様々です。

膝蓋骨脱臼の症状は、無症状な状態から歩くことが困難な状態までと幅が広く、その程度(グレード)により次の 4 段階に分けられています。



[グレード 1 ]
膝蓋骨は正常な位置にあり、膝をまっすぐ伸ばして膝蓋骨を指で押した場合には脱臼を起こしますが、離すと自然にもとの位置に戻ります。無症状なことがほとんどですが、たまにスキップのような歩行をすることがあります。



[グレード 2 ]
膝蓋骨は通常、正常な位置にあるのですが、膝を曲げると脱臼してしまいます。脱臼した膝関節は、足をまっすぐにしたり指の力で押さないと元には戻りません。あまり日常生活に支障はありませんが、脱臼しているときには足を引きずるようにして歩く跛行(はこう)がみられます。時間の経過とともに、膝の靭帯が伸びたり骨が変形を起こしてしまうと、グレード 3 に移行してしまう場合があります。



[グレード 3 ]
通常、膝蓋骨は脱臼したままの状態となり、指で押した場合に、一時的にもとの位置に戻ります。跛行も顕著となり、腰をかがめ、内股で歩くようになります。骨の変形も明らかになってきます。



[グレード 4 ]
膝蓋骨は常に脱臼した状態となり、指で押しても整復できません。骨の変形も重度となり、足 を曲げてうずくまるような姿勢で歩いたり、地面に足を最小限しか着けないような歩き方になったりします。



治療

鎮痛剤やレーザー治療などで一時的に症状が緩和をする場合もありますが、根本的な治療は外科手術となります。







前十字靭帯断裂



  1. 大腿骨に対して脛骨が前に飛び出さないように制限する

  2. 膝の過剰な伸展を防ぐ

  3. 後十字靱帯とねじりあって脛骨が内側にねじれこまないように支えるなどの役割があります。前十字靭帯断裂は、この前十字靱帯が切れてしまう病気です。



原因

前十字靱帯は、加齢により靭帯の強度が弱くなったり(靭帯の老化)、肥満により負担がかかることで切れやすくなります。また、小型犬で膝蓋骨脱臼がある場合や、骨の形成異常などがある場合も靭帯に負担がかかるために発症の要因となり、膝に急激な外力(外傷や打撲、急なジャンプやダッシュ、急激なターン、事故など)が加わることで前十字靱帯断裂が発症します。



症状

靭帯が断裂した直後は、痛みのために地面に患肢を最小限しか着けないような歩き方をしたり、足を挙げたままの状態になったりします。体重が軽いワンちゃんの場合、痛みは 2 – 3 日経つと軽減することが多いようです。しかし、関節内の障害が慢性化すると、足を引きずるようにして歩く跛行(はこう)がみられるようになり、特に運動後は顕著に認められます。体重の重いワンちゃんで症状が顕著な場合が多く、慢性の関節炎や関節が腫れる症状がでることもあります。






内科的治療


鎮痛剤の投与やレーザー療法などによる痛みの管理、運動制限、肥満を防ぐための体重管理などを行います。内科的治療で症状が緩和され、良好な生活を送れるケースもありますが、症状が重度な場合や内科的治療を行って症状の改善がみられない場合などは、外科的治療を行います。





整形外科150症例以上
橈尺骨骨折、脛骨骨折、大腿骨骨折、骨盤骨折、上腕骨骨折、下顎骨骨折、中足骨骨折、中手骨骨折、指骨骨折、断脚、断指、断尾、股関節脱臼、尺骨切除、手根関節脱臼、レッグペルテス(大腿骨頭壊死症)、膝蓋骨脱臼、股関節形成不全、椎間板ヘルニア